【タイトル】 | ・・・【身を焼いた兎】 |
昔なあ。 | |
きれいな山の、場所ん良かとこいい、けだもんたちが、毎日仲良う、くらししておいもした。 | |
狐は川の魚ばとって、猿は木に登って果物(クダモン)ばとい、兎は青草ば食べながらくらしておいもした。 | |
そいでも、こんけだもんたちゃ、ほんとうに仲良う、遊んでおったもんやいもすどかなあ。 | |
ある日んこと、一人(ヒトイ)の旅の坊さんが、ここを通いやいもしたが、その坊さんが、 | |
そこまできゃったときはったい倒れやいもした。 | |
狐、兎、猿どもは、たまがって、坊さんに近寄って、「坊さま、どうしゃいもした」といいもしたばって、 | |
だまって、おいやいもしたので、つづけて、 | |
「お坊さま、どうしやいもした」と、太か声でおらびもしたいば、坊さんが、蚊のなくごとあい、 | |
こまんか、力んなか声で、 | |
「私しゃ、はらがへって、どらんもならん、食ふもんがほいか、もう動くことも出来ん、もの言う力もなか」 | |
と言われもした。 | |
「ぐうらいか、この坊さんな、なんごう、食ふもんば食うとらじん、死んかかておいやる。 | |
何とかして、助(タイ)けもうさねばならん」と、三匹のけだもんたちゃあ、力ば合わせて、 | |
食うもんば、さがすことてえ、ないもした。 | |
狐は、いせえで、川に飛びくうで、魚ば一匹、くわえてきもした。そして、こいば坊さんにあげもした。 | |
猿は木に登って、くだもんば、とって来て、こいば坊さんにあげもしたが、兎だけゃ | |
何ば持ってくいことも出来もさんやいもした。狐んごと、川に入いことも出来ねば、 | |
猿んごと木に登いこともでけもさん。 | |
「兎、あっかあ、なんばしとっとか、ポカッと口ば開けとっても、食うもんな、口にゃ入っちゃこんたっど、 | |
探あてさいかねばだめやっど」兎は、 | |
「ハイ、ハイ、すんもさん、すんもさん」と言いもした。そして兎が言いもした。 | |
狐さんや、お猿さんに頼みたかことがあいもす。 | |
「そらあ、なんやっとか」 | |
「そらあなあ、枯木ん葉ば、べったい、集めてくれんかな」 | |
「よお、そらんことならあ、直きでくっでえ、集めてやっどう」と言うて、 | |
枯葉ばべったい集めもした。兎は、よいこうで。お前たちい、お礼ば言うどうて言うて、 | |
この枯草に火ばつけたのは、兎やいもした。火はバチ、バチ燃えあがいもしした。 | |
そん燃ゆい火の中きゃ兎は飛っこみもした。 | |
「兎は、からだば焼あて、死ぬいつもいやあ」坊さんな、たまがって、お経ば、あげやいもしたば、 | |
火は消えもしたばって、そん中から黒こげえなった、兎が出てきもした。 | |
兎はわが身を焼あて、坊さんに食べてもろうつもいやいもした。そんとき、そけえおいやった坊さんな、 | |
いつんまにやっどう、仏様になっておいやいもした。そいて、仏様は、 | |
「兎よ、お前は、わが身ば、焼あて坊さんにあげようとした。その考え、とても感心した。 | |
この世界いお前(マイ)ば、置くたあ、勿体なかでえ、今から、お前ば、月の世界までつれていたてやっどう」と、 | |
言われもして、兎は仏様に抱かれて、月の世界に行ったちゅう話しやいもす。 | |
もう、そい限いのむかあし。 | |