| 【タイトル】 | ・・・【きょうだい星】 |
| 昔あったちゅう。 | |
| いなかの一軒家があってなあ。おとっちゃんな死んでおらじん、 | |
| おっかさんな外(ソテ)え出て家にゃあおらじん、姉と妹と二人残って、赤ごの番をしとったちゅうが。 | |
| 姉はちっと馬鹿でなあ、妹(イモ)たあ利口者やったて。 | |
| 晩になれば、狸の出て来て、おっかさんに化けて来てなあ。 | |
| 「この戸ば開けてくれ」て、言うもんやっでぇ、開けてやったばい、 | |
| 狸のおっかさんな家(エ)ん中さみゃあ入って来てええて、 | |
| 「お前どまあ、そっちい行け」て言うもんやっでぇ、姉妹二人で一緒(イッセ)え寝とったとこいが、 | |
| 夜中(ヨナ)きゃあなったいば、何か食(カ)む音がすっでぇ、 | |
| 「何ばおっ母(カ)んな食うよったろうか」と思うてなあ、姉じょうの、 | |
| よろっと障子ば開けて見たたっちゅうがなあ、そひたいば、 | |
| 赤ごの指ば食(カ)みよるとこいやっでぇ、妹じょうが、 | |
| おっかさん、おっかさん、何ばかみよいもすか」て言うたいば、 | |
| 「おらあ、漬物ば噛みよっとよ、あぐでめえにゃあ、明日噛ますっでぇ、早よう寝え」て言うたたっちゅうが。 | |
| 明けてん朝あなったとこいが、赤子はどけぇ行たたっどう、居らんごとなっとったたっちゅうが。 | |
| 子どまあ、「妙なことや、おかひかこたあ」て思(オンム)うとったばって、またその晩にゃあ、 | |
| 戸ば叩く音のすったっちゅうでそら、妹が戸口い行たて、 | |
| 「おっかさあん、手ば出(ジャ)あてみやいもせ」て言うたたっちゅうが。 | |
| そひたいば外から手ば中(ナキャ)あ入れたでえ、その手ばさすって見たたっちゅうが。 | |
| そひたいば手のかさかさすいもんやっでぇ、戸ばきっかとせえたて。やいばって一時(イットキ)したいば、また | |
| 「戸ば開けんか」て言うたたっちゅうたあ。今度もちっと開けて、て出(ジャ)た手ばさすって見たとこいが、 | |
| すべすべしとったもんやっでぇ、本当のおっかさんかと思うて、戸ば開けてやったちゅうが。 | |
| そひたいば、おっかさんのごとした人やって、 | |
| 「あっこどまあ、早(ハヨ)う寝んかよ」て言うたたっちゅわ。とこいが、妹が姉に | |
| おいが夜中(ヨナキ)ゃあ、かんぜえ行こうて言うでぇ、そんときゃあ、お前も | |
| 「おいも行くどう」て言えよう」て言うて聞かすったっちゅわ。本当に夜中(ヨナキ)ゃあなったとこいが、 | |
| そがんいうごと言うもんやっでえ、狸い化けたおっ母(カ)んの、目ば覚みやあて、 | |
| 二人とめぇ、我が我が手ば縄できびって行くたっどう」て言うたて。そいで言うたごと、かんぜぇ行くたて、 | |
| 「こけぇ居れば噛まれてしまうたいが、どがんすればよかたろうか」て妹の方な思案すっとこいやって。 | |
| とこいが、そこんあたいば見れば、かんぜん近か所(トコレ)えある池のそびゃ木があったでぇ、妹が、 | |
| 「姉さん、この木いい登いいやれ」て言うたちゅう。そいで木い登い前、手から縄が放(ハニャ)はて、 | |
| かんぜの柱(ハシ)りゃあきびいちけて、二人とめえ木い登って隠れとったちゅう。 | |
| そうひたちゅうでぇ、狸のおっかさんどんな、二人とめえ戻って来(ケ)んもんやっでぇ、 | |
| 尋(タン)ねきゃあ来たとこいが、かんぜにゃあ居らんやったでえ、付近ば見よったいば、 | |
| 池の水(ミジ)い二人が映っとったて。そいば手ですくうても、すくうても影法師やっでぇ、 | |
| 手にゃ入らんやったとよなあ。 | |
| 「あいや」て言うて、見上げたとこいが二人とめえ木登っとったて。おっかんな | |
| 「お前(マイ)だあ、どがんして木い登ったとか」て言うたいば、妹が | |
| 「言うな、言うな」て言うたて。とこいが、おっかさんがあんまい聞くもんやでえ、 | |
| 「油ば塗って登って来たたがあ」て言うたて。そいでおっかんな油ば塗って登ろうてしたばって、 | |
| 出来んやったとよなあ。 | |
| 「油はずるずる滑って登られが、お前だあ嘘言うな」て言えば、姉が馬鹿な女やっでえ、 | |
| 「鉈(ナタ)でぎざぎざば付けて登って来たあ」て言うたたっちゅうたあ、そら。 | |
| そひたでえ、おっかんどんな、鉈ば持って来て、ぎざぎざば付けて登って来じゃあたでえ、 | |
| 「ああ、もうこい限いやったあ。噛まるったいが」て思うて、神様あ向うて、 | |
| 「どうかちゅう事やっで、天から綱ば下(オレ)えてくれやいもさんか」て祈ったたちゅうでえ、 | |
| そひたて、天に昇ったて。そひたとこいが、姉妹たちゃあ星(ホウシ)いなって、 | |
| 姉妹星て言う名前の付いたたちゅうが。そひたいば狸どんも、そいば真似て、 | |
| どうか神様、縄ば落てきゃあてくいやれ」て、頼うだとこいが、腐れた縄の落ちて来たちゅうが、そら。 | |
| 狸はそいば伝ううて登いよったいば、いよいよ天に届こうてすっ時縄のちぎれて、 | |
| とうとう下(ヒチャ)あ落ちてしもうたて。そん時ちょうど下の畑え穂黍(ホキビ)ん植わっとっ所え、 | |
| 落ちたもんやっでえ、その茎で怪我して死んでしもうたたってなあ。 | |
| 穂黍(ホキビ)の茎の赤かたあ、そいが血やって、そら。 | |
| もう、そい限いのむかあし。 | |