・・・方言で話せたら、語れたら楽しいかも・・・チャレンジあれ!!・・・
【タイトル】 ・・・【はちまきをした太田の浜の松の木】
 昔なあ。
太田の浜にゃ小さか松がたくさん並んで生えておいもしたちゅが。
青々としてとてもきれいな眺めで、島の人たちやいつもこの松をながめてながら、漁に出ておいもしたちゅが。
 とこいがあるとき、この島にたいへんなことんおこいもしてな、村中大騒ぎいなってしめもした。
そいというのは、下甑の沖いたくさんの、あらくれ男たいば乗せた太か船が何隻も来もして、
こん島ばせめとって、自分たちの島にしようとしているちゅう話が、はいってきもしてな。
おかげで村の年寄りたちゃ、皆な集まって、どうしたらよかもんやっどうかと、今日も、
明日も相談していろいろ考えもしたが、村にゃあらくれ男どもと、いくさばすいような力は無かもんでえ、
みんな弱いきっておいもした。
「何か、よか知恵どまあ、なかもんやっどうか」出(ズ)ったあ、ため息ばっかい、こいと言ふよかあんも
出んもんやっでえ、みんな青ざめて、もの言ふ人もおらんごとないもして、しおれてしめもした。
とこいが、そげんしといとき浜の安吉が、
「そうじゃ、とんちのよくきく野平次に相談してみたらどうやっどうおか」て言いもした。
そしたいば、今まで、しょんぼいしとった年よいたちが、元気づきもして、
「ほんに、ほんに、野平次んこたあすっかい忘れとった。」
「安吉、おまえいたてくれんか」
皆なが、さんせいして進めたでえ、安吉はいせえで野平次の家に行きもした。
「ごめんよ、野平次」  、  「野平次、おっとか」
何どおろうでも、返事のなかもんやっでえ、おかしかなあと思て、戸ばあけて家ん中ばみたいば、
野平次や、グウグウといびきばきゃあて寝ておいもした。なんちゅうのんきな男やっどうと、
安吉やあきれてしもうて、いっときゃ、声も出じんおいもしたばって、
野平次、野平次、おきてくれんか」とふとか声でおらびもした。
野平次や目ばさましもして、びっくいした顔で安吉ばみもした。
「おい、野平次、じつはな・・・・・・」
安吉ちゃ、使いに来たわけばくわしゅう話しもした。そしたいば、野平次や、ゆっくい起きて、
キセルでたばこばのみはじめもした。いっときたばこば飲みながら、じっと考えくうでおいもした。
どんくらいないもしたかな、野平次が、ポンとひざばたたきもして、
「うん、良か考えんあっどう」と言うが早かか、はだしんままで太田の浜の方へ走っていきもした。
安吉も野平次んあとから、せいせい、言いながらついて走っていきもした。
 太田の浜に着くと、一本の松の木の幹いばしばいつけてな、
「こん松の木の幹い、白かきれで、全部(ネッカラ)はちまきばすれば、味方が、沢山(ベッタイ)おいごとみゆっでよ」
野平次は、太か声で笑いながら言いもした。たまがって、いっときゃぼっとしとった安吉や、
本当(ホンニ)やなあと思って、いせえで、年よいたちの集まっとい、家に行たて野平次ん考えばしらせもした。
「よか考えやっ、ほかに方法はなか」
「そうじゃ、そうじゃ」
「早よう行こい、早よ行こい」
 みんな、さんせいしもしてな、いせえで、村中にこのことばふれまわって、鉢巻いないもんば集むいこてえしもした。
昼過ぎにゃ、しろかはちまきいなる手拭(テネゲ)や、白か布は、多数(ベッタイ)集められもして、
お祭いん時んごと、いそがしゅなって、行ったい来たい道ば通い人のかずも多(ウ)うないもした。
女や子供たちも、みんな加勢しもしたので、夕方ごろにゃあ、太田の浜の松の木は、
全部(ネッカラ)鉢巻ばしてしめもした。
 沖の方におった、あらくれ男たちの船が、中甑の方に近づいてくいと言う知らせがあしもしたでえ、
村のひとたちゃあ、太田の浜の松林しい集まって、ほら貝ばふいたり、太鼓ばたたいたり、
一生懸命しもしてな、そりゃあ勇まいかもんやった。
ほんに知らん人たちにゃ、味方が、べったいおいごと見えたろう。
 昼ごれえなってな、あらくれ男たちば乗せた船が、やってきもした。
こん、小(コマ)か村ば、一息いせめ落とそうとやってきもしたが、船から、太田の浜ばみっと、
白か鉢巻の、人たちが海岸いっぱいならんでおっとが見えもした。
それえ、ほら貝の音や、太鼓の音が、あんまいすいもんやっでえ、とてもだめやいて思うて、
「こりゃあ、俺(オイ)どんばっかじゃあ、とても勝やえん、ひきあげねば、だめやい」と言うてな、
あらくれ男たちば乗せた船にゃ征むっとばあきらめて帰っていきもした。船が後ろばむけたでえ、
村の人たちや、喜(ヨイ)くうで、ほら貝や、太鼓の音ば、ますます大きくしもした。
 松の木に、はちまきばすい知恵ば出してくれた野平次にゃ、村の人たちから、
好きな焼酎が何本もお礼にとどけられもした。
そいから、島は、もとんごと平和な島にないもした。
夕日が大明神に、沈むころにゃ、静かな海に小舟が、二、三艘、漁に出ていきもした。
もう、そい限いのむかあし。