| 【タイトル】 | ・・・【五色の鹿】 |
| 昔なあ。ずうとむかいのはなしやいもす。 | |
| 白い角ばもった五色の鹿が、大きな川んあたいに住んでおいもした。 | |
| この五色の鹿ん友達い一羽ん烏がおいもした。 | |
| ある日んことやいもした。この大きな川に一人の男が流れておって、 | |
| 「たいけてくれー、誰かたいけてくれー」て、おらぶ声が聞こえもした。 | |
| 五色の鹿はこの男の声ばきいて、 | |
| 「助けてやろうと思うて、川岸までいきもしたが、川ん水は雨上がりで、とても流れが早ようして、 | |
| こん流れん中きゃ飛びこめば自分もどうないかことかと思いましたが、 | |
| 川案ばしておい内い流れている人が死にそうにあにもしたので、 | |
| 五色の鹿は思いきって川の中きゃ飛びくうて、はげしい渦んなかば、 | |
| 力のあい限い泳いで流れている人にやっと泳ぎつきもした。 | |
| 「鹿ん背中きゃ乗れ、しっかいと俺(オイ)や角ば握っておれ、心配すいこたなかでえ、 | |
| 安心せえ、あん川岸まで連れてゆくでえ」 | |
| て言うて、早か流れん中ば泳いで川岸い着きもした。 | |
| そして、水ばたくさんのんで死んかかっておった男ば、あいかぎいの手当てばして | |
| この男の命ば救うことんできもした。 | |
| 命びろいばしたこの男は、このご恩ばどうして返したらよかろうと思いもした。 | |
| このとき、五色の鹿は、 | |
| 「なにも恩返しはいいもさんから、ただ一つ約束ばしてくいやいもせ。そらあな、 | |
| こん山ん中きゃ五色の鹿の居いことば誰にも言うてくいやいもんすな。 | |
| もし人間共にわかっと、こんきれいな白い角や、五色の毛皮ば取ろうと思うて、 私が殺さるこてえないもすでえ」 | |
| 男は、五色の鹿のおつとこや決していいもさんと約束ばして和kれたちうもさあ。 | |
| おしから何年かたちもした。その国の王さまの奥様が、その歯科の夢ば見もして、 | |
| 五色の毛皮や白か角が欲しうないもした。そんうえ、病気までされてうわごとんごと | |
| 「鹿ばさがしてくいやいもせ、そらんせねば私しゃ死にもす」と言ふもんやっでえ、 | |
| 王さまは奥様の言ふごと、五色の鹿ばさがしゃいこてえないもした。 | |
| 国中にふれば出して、五色の鹿ばつかまえたもんにゃたくさんの金や銀ば、 | |
| ほうびとしてくれると言うこてえないもした。このうわさが国中に広がいもした。 | |
| 五色の鹿に命ば助けてもろうた男は、鹿の居いとこやあよう知っといばって、 | |
| 居い場所ば知らせんごと約束ば守いもした。しかし、相手は畜生じゃ、 | |
| こん鹿ばつかまゆればたくさんのほうびがもらゆっでえ、こんなよかこたあ | |
| 又となかことやあと、よくに目がくらんで、国の役人に、 | |
| 「五色の鹿のおいとこいば知っといもすでえ、案内しもそう、しかしこん鹿は神通力ば持っといもすでえ | |
| たくさんの兵隊ばつれていきもさねば捕まえきらんかも知れもさんどう」と、男は言いもした。 | |
| 王さまは、五色の鹿ばつかまゆいためえ、たくさんの兵隊ばだして、奥山に向かわせもした。 | |
| こいば見た五色の鹿ん友達ん烏は、鹿んとこいいたて、知らせもした。 | |
| 「たくさんの兵隊が、おまいば捕まゆるちゅうて、取いまえておっどう、 | |
| どこか早よう逓ぐい構えばせねば、命ちゃなかどう。」 | |
| 鹿は思案の末かくごばきめて自分から王さまの前え出てゆきました。 | |
| 兵隊が弓矢ば構えてしかば射ろうとしたいば、王さまは、 | |
| 「ちょっと待て、この五色の鹿は、仏さまの使いやっでえ殺しちゃならん」とおらばれもした。 | |
| そんとき、鹿は言いもした。 | |
| 「私は、この国のある男が、川に流されて死にそうにないもした。 | |
| そんとき、自分の命んことも考えじん川の中に飛びくうで、そん男ん命ば助けてやいもした。 | |
| その大恩ば忘れて、私のおい場所ば知らせた悪いか男がおいもす。」 | |
| 王さまは、びっくいしやって、 | |
| 「私の国の人民は人情がなかでえや、その悪いか男に対してやかましゅう言うて、 | |
| 今からそがんことのなかごとする」と言われもした。 | |
| 五色の鹿の命は助かもした。そいから、この国では鹿を殺しちゃならんと言うおふれが出もした。 | |
| そんためえ、国中の鹿は、のんきい暮らさるいごとないもした。 | |
| そいから国中の人民のくらしも、だんだんよくないもして、国も栄えたちう話しやいもす。 | |
| もう、そい限いのむかあし。 | |